童話×色鉛筆画「きまぐれなちくわ」

童話×色鉛筆画「きまぐれなちくわ」を描きました。「朝、目が覚めると、おふとんの上でちくわがぼくをじっと見つめていた・・・」からはじまる楽しいおはなしです。

童話×色鉛筆画「きまぐれなちくわ」

「きまぐれなちくわ」SumiyoⒸ2021

童話「きまぐれなちくわ」文Sumiyo

朝、目が覚めると、おふとんの上でちくわがぼくをじっと見つめていた。

そして
「おはよう。しょういち」
と、言った。

えーーーーーっ!

朝、目が覚めると、
おふとんの上で
ちくわがぼくをじっと見つめていた。

そして
「おはよう。しょういち」
と、言った。

えーーーーーっ!

ちくわは、ぼくが保育園のときからのペットであり、ちくわ色した小さなチワワである。
犬がしゃべったなんて聞いたことない。
でも、インコは教えた通り上手にあいさつするよね。

つまり犬だってやればできるということなのかもしれない。

「ぼく、なあんにも教えてないのにしゃべれるなんて、ちくわは鳥みたいにかしこいね」
ほめるとちくわは
「教えなわからん脳みそのちっこい鳥と一緒にすなっ。チワワはな、頭がええねんぞ」
と、キレた・・・。

「しょういちの好きなアニメを一緒に見てるだけで覚えたんや。チワワにはな、世界を渡り歩いて5か国語マスターしたやつかておるんやで」
ちくわは胸を張った。
「スゴイじゃないか」
ちくわはゴキゲンな顔になった。
「でもな、鳥に『チワワのほうがかしこいぞ』て自慢したら、怒りよるけどな。『わしら鳥は昔、恐竜やったんやぞ、偉いねんぞ。生意気いうとったら、くちばしでしっぽつかんで空中でぶんぶん回転さして隣町まで飛ばしたろかっ!』って言う」

それにしても、見ためはぬいぐるみみたいなチワワの話し方が想像していたのとぜんぜん違う。
「ちくわって、そんなしゃべり方だったんだね」
「は?どんな声やと思っとったんや?」
「いや・・・もっとカワイイかと」
「けっ、そらまた申し訳ないことですなっ、しょういちくん」
小さなチワワはジャンプしてぼくの太ももを蹴った。
「いてっ・・・あのね、ちくわ、ぼくの名前はしょういちじゃないよ?知ってるくせにっ」
「ふんっ、小学一年生やろ?しょういちやないか」
「いや、そ、それは・・・」
たしかに小3でも小6でもなく小1だけど。
飼い主の名前をまじめに呼ばないなんて、なんてへそまがりなチワワなんだ。。。

まあ、ちくわの性格はちょっと気になるけど、ぼくは、ちくわと話ができるようになったことを自慢したくてたまらない。
そして、ついに給食のあと、教室の前に立って
「うちのちくわってしゃべるんだよ。みんなに紹介するから、きょうの放課後、公園に集まってくれ」
と、鼻をふくらませて言った。
クラスの中でいちばん走るのが遅くてとびきり地味なぼくが、はじめてヒーローになれる瞬間!想像するとわくわくしすぎておしっこもれそうだ。

「このちっこいチワワがしゃべるの?まじか」
公園のベンチでともだち5人はちくわをのぞきこんだ。

「そうなんだ、みんなびっくりしちゃだめだよ。さあ、ちくわ。みんなにごあいさつして」
ぼくが言うとちくわはつぶらな瞳でみんなを見上げて

「わんっ」
と、かわいらしい声で鳴いた。

わん?って犬みたいな・・・。いや犬だけど。

ぼくがいくら話しかけてもちくわは、わん、しか言わなかった。
「なんだ、ウソじゃん」
ともだちはぷりぷりしながら帰っていった。

ぼ、ぼくはうそつきじゃないよーー!

家に帰ってもぼくは冷蔵庫からおやつのプリンを出すのも忘れ、膝を抱えて部屋の隅からちくわをにらんだ。
「どうしてしゃべらなかったのさ。ぼく、うそつきにされちゃったじゃん」

ちくわは、うひっと笑って
「すまん。いまいち気分がのらんかったんや」
と謝った。

なんだよ、それ。

そのとき、ピンポンとインタホンが鳴った。
「はーい」
インタホンの画面を見ると、知らない男のひとだった。
「テンキ料金の集金でーす」
「はい」
留守番のときは、こういうお手伝いもしなくちゃならない。
お金、お金・・・っとごそごそと財布を探した。
するとちくわが
「あほかお前、あいつ詐欺師やぞ」
と言った。
「えっ?だってデンキ料金って」
「ちゃんと聞いてへんかったんか。どんな耳しとんねん。デンキ料金やなくて、テンキ料金言うとったぞ」
「はっ?・・・天気?」
「あいつ、このへんの留守番小学生をだまそうとしてるんや」
「えーっ」
ぼくは、こわかったけど、ちくわに言われた通り、
「電気料金なら払うけど、天気料金は払わんぞ!」
と勇気を出してインタホンごしに叫んだら、男は逃げた。

ほっとした。

「ちくわ、あいつ、このあたりの小学生をだますって言ったよね」
「そやで」
「なら、クラスのみんなに知らせなきゃ!」
ぼくは家の電話で、まず隣の席のいっくんに伝えた。でも、いっくんは・・・いや、いっくんだけじゃなくて、他のともだちも
「なんでまた、そんなウソつくんだよ?」
って、ちっとも信じてくれない。

「明日学校に行ったら『うわーん。だまされて天気料金払っちゃったよお』ってクラスじゅう大騒ぎになってたら、ぼくどうすればいいの?」
ぼくが焦るとちくわは、ふんと言って
「信用ないねんなあ、しょういちは」
と言った。

・・・って、うそつきになったのって誰のせいだよ?
「ふだんから信用あったら、みんな信じてくれるはずやろ?しょういちはともだちの意見でふーらふーらするところがあかんねん。おまえはもっと自分に自信を持て。『オレはこう思う!』って感じで、でーんとかまえとかんかいっ。もうすぐ2年生になるんやろ、そんなことやと新しい小1になめられるで」
これって、ぼくをはげましてくれてる?

「そんなことより、はよ飯にしてくれい。はらぺこや」
ちくわは、でーん、とぼくのベッドの上で寝転がった。
いや・・・はげましてるわけではなさそうだ。なんだか叱られている気がするなあと思いながらちくわ専用の器に乾いたドッグフードをざらざらと入れた。

確かにちくわの言う通り、
ともだちみんなのキゲンをとって気に入られて、ちやほやされたい。
とかちょっとだけ思ってたから、なんかどきっとした。
「ごはんには、ゆでたささみはかならずトッピングしてや。それ基本な」
ちくわはごろごろしながら命令した。

次の朝、学校へ行ったら、ぼくはヒーローになっていた。
みんなのうちのインタホンもピンポンと鳴って、あの男が来た。
すると犬や猫や鳥やハムスターやかぶとむしや金魚・・・
ともだちが飼っているペットというペットが騒ぎ出して
びっくりした男は逃げてしまったらしい。

小学校の前にある交番のおまわりさんに聞いたら
「昨日の夕方、捕まったよ」と言ってた。
クラスのともだちは
「おまえの電話をウソだとか言ってごめんな。すごいよなーおまえんとこのチワワって。本当にしゃべるんだ」
みんなはぼくに謝ったり、ちくわを褒めたり忙しかった。
まあ、つまり正確には、
クラスのヒーローはぼくじゃなくてちくわだけどね。

早く家に帰って、ちくわにこの話を聞かせてやりたかった。生意気なちくわが、ますます偉そうにするかもしれないけど。

ぼくは放課後、ランドセルをぴょんぴょん揺らしながら走って、
玄関で靴を右へ左へいきおいよく飛ばすと部屋に行き、
興奮した早口でちくわに今日のことを伝えた。

でも、ちくわはかわいらしい瞳でぼくをみあげ、
しっぽをぷるぷる振っただけだった。

え?

「ちくわがさ、クラスみんなのペットたちに伝えたんでしょ?すごいなあ、ヒーロー犬だぜって、大騒ぎだったよぉ」
と、さらに話を続けたけど、
ちくわは
わん、と鳴いただけだ。
以前と同じ、普通のチワワだった。

いまもちくわは、わん、としか言わない。
「いまいち気分がのらんからな」
という理由なのかどうか知らないけど。
とりあえず、
ちくわのごはんに、ゆでたささみは入れている。
おわり

「きまぐれなちくわ」SumiyoⒸ2021

error: Content is protected !!