2019年梅雨時期に雨の音を聴きながら、水彩で描いた紫陽花です。童話も書きました。
童話×水彩画「雨音」絵と文 Sumiyo
「雨音」2019 水彩
童話「雨音」SumiiyoⒸ2019
雫がまっすぐに落ちて
残像が幾本もの弦を張り
雨は楽器になりました。
紫陽花は
ある旋律を
ふいに思い出しました。
ずっと昔
どこかの国の
どこかの庭で
聴いたことがある音楽です。
長く雨が続いた遠い日
あの庭に
少年が立っていました。
群生する紫陽花を
ひと束
こっそり盗んで
市場に売ろうと
思ったのです。
ともだちみんなと同じ
運動靴がどうしても
欲しかったのでした。
紫陽花は
少年がそれで
なかよく遊べるなら
かまわないと思いました。
しかし
少年はずぶぬれのまま
長いこと立ち尽くし
澄んだ瞳で帰っていきました。
そのとき
古い洋館の
窓の隙間から
こぼれては
雨粒に溶けていた
美しい弦楽。
その一小節がいま
萼片に閉じ込めた
ささやかな記憶を
誘い出したのです。
ベルベットに似る手触りの
浅緑色の葉脈を
飄々と這う蝸牛に
少年が
りっぱな大人に成長していく
物語の続きを
そっと教えてやりたいと
紫陽花は思いました。
おわり
SumiyoⒸ2019
BGM:フォーレ「夢のあとに」
2019年の静かな梅雨
こんにちは。
Sumiyoです。
近所の家に
紫陽花が咲いていましたが
ひとの庭でスケッチするわけにもいかず、
買物の帰りに
立ち止まって
じーっと見つめては
自宅で描きました。
そのとき、
紫陽花の葉が
別珍のような素材感であることに
気づきました。
発見でした。
紫陽花の「花」に見える部分は
実は「萼」。
真実の花はとても小さいのです。