童話×水彩画「初東風はつごち」

童話×水彩画「初東風はつごち」を描きました。モチーフは1月の花、日本水仙です。

水彩画「初東風はつごち」

「初東風はつごち」SumiyoⒸ2021

童話「初東風はつごち」 文Sumiyo

人工池の畔で

紅碧色(べにみどりいろ)の
燕小灰蝶(つばめしじみ)が

冬草を織る横糸のように
右へ左へ
忙しく往復します。

ひとしきり飛ぶと
蝶は満足して

水辺に黙って咲いている
白い花の葉先でひと息つくと
尋ねました。

「きみたちは
水に純真な姿を映しては
誇らしげな顔をしているけど

ここから
一歩も動けないじゃないか。

そんな退屈な世界にいる
自分が好きでいられるのかい?」

花は
少し考えると

こう答えました。

「自分が好きか。嫌いか。

ではなく

自分を愛することは

自分にしかできない仕事だと
思うのです。

だから
通り過ぎる風景に
心ざわめくことはあっても

ささやかながら
自分を静かに好きで
いるのです」

「ふん。まじめなやつめ」

燕小灰蝶はぶるる。と
触覚を震わせました。

花は、少し微笑んで

「でもね、

愛せる自分で
いなければならないと

強く思い
背筋をのばしすぎると

あの薄氷のように
固くなって割れやすい。

だから
風が吹いたら
しなやかに揺れよう。

そうも思います」

と言いました。

人工池の真ん中あたりに
踏めば瞬時に、ぴりと
音をたてそうな

半透明の薄氷が
銀の浮島のごとく
光っています。

燕小灰蝶は葉先を離れ

そこをめざして
ふうわりと舞い上がり

瑠璃よりもやや淡い、

べにみどりの
愛らしい羽ばたきを

冷えた水面に映しました。

初東風なのか

燕小灰蝶の羽風なのかは

わかりませんが

短く風が起き、
さざ波がたちました。

振り向くと
花は心地よさそうに
揺れていました。

おわり

「初東風はつごち」SumiyoⒸ2021

早春を感じる「初東風」

初東風はつごちは
1月中旬頃に吹く
早春の東風で

もうすぐ春が来ることを
告げる風だそうです。

水辺に咲く日本水仙を
透明水彩で描きながら

花の周りを舞う
シジミ蝶を想いました。

京都の駅の草むらで
よく見るかわいらしい
白い蝶です。

童話で登場するのは

鮮やかなのに少し寂し気な
ブルーグレイ「紅碧べにみどり」の
色を纏った燕小灰蝶つばめしじみ。

花の水彩画が完成する直前、

美しく、自由に飛べることが
自慢の燕小灰蝶と
ただそこに咲くだけの静かな花の

会話が浮かびました。

昔、いきなり会社を辞めて

あてもなく
フリーランスに

なったとき、

荒野にひとり立つと
そんな感じなのかは
知りませんが

膝頭に風がひうと吹き抜ける
気がしました。

ある人に言われました。

今までは会社が守って
くれていたから
適当なこともできたでしょう。

でも、これからは
あなたの代わりは

誰もできない。

爪の先まで
自分で大切にするのも
仕事ですよ。

と。

自分を愛すること
大切にすることは

自分にしかできない。

それは仕事なのだと

その時から
思うように

なりました。

しかし、そう
強く思うほど
神経質になるので

最近では
ときどき
大きく深呼吸して

何ごともバランスだよ
と思うようにしています。

ちなみに

美しい水仙の葉は
ニラに似ていて
食べると毒があるそうです。

日本水仙の
凛とした清楚な美しさの奥には
そういう強さを秘めている

ということなのでしょうか。

 

 

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