新作童話「こんぺいとう流星群」を書きました。水彩画の挿絵も描きました。
こんぺいとう流星群
「こんぺいとう流星群」SumiyoⒸ2021
「こんぺいとう流星群」 文 Sumiyo
くまばかりが住む町がありました。
町はおだやかでやさしい空気に
満ちていましたが、
うそつきな
おじさんくまもいました。
うそばかりつくので
町のくまは
あまり近づきません。
ですから
おじさんくまはいつも
ひとりでした。
町に
新しく小さなこぐまの兄弟が
引っ越してきました。
おじさんくまが
うそつきだなんて
だれからも聞いてなかったので
まいにち、
おじさんくまのお店に
遊びに行きます。
おじさんくまはお菓子屋さんです。
お客さんはこぐまの兄弟だけ
でしたから
でたらめの作り話を
おもしろおかしく
たっぷりと話しました。
こぐまの兄弟は
なんでも、
うん、うん、うなずいて
まるごと
信じてしまいます。
たとえば、
「このあいだ湖に
大きな虹がたったろう?
あの一番下でね、
大きなボウルに色を集めて、
なないろのキャンディを
作ったんだよ。食べてみるかい?」
と言われて
こぐまの小さな兄弟は
うん、うん、うなずいて
大きなガラス瓶に入った
なないろのキャンディを
食べ、
「これが虹の色なの?そういえば
そんなきれいな味がする!」
と目を輝かせました。
【あした、流星群が見られるでしょう】
お店のラジオから天体予報が流れました。
いま町はこの話でもちきりです。
流星群が見える日、というのは
何年かに一度、
宇宙の果てから夜空に星が
流れてくる夜のことだそうです。
でも、こぐまの兄弟は
「りゅうせいぐん」を見るのが
はじめてで、
それがいったい
どんなものがわからないので
どきどきしました。
「実はね、おじさんが
あしたそのお手伝いをすることに
なってるのさ。
これはたいへんな計画だから、
ぜったい内緒だよ」
おじさんくまは、
またうそをつきました。
こぐまたちは
うん、うん、うなずいて
「どうやって空に星をまくの?」
と目を輝かせたので
おじさんは、
「この町でいちばん高いお風呂屋さんの
煙突にのぼって、てっぺんから
降らせるのさ」
と、思いつきの
でたらめを言いました。
「たのしみだね!にいちゃん」
「うん!」
こぐまの兄弟は
スキップしながら
帰りました。
こぐまたちの心は
一点の
濁りもなく、
透明な泉のように
透き通って
いましたから
その後ろ姿に
おじさんくまは気持ちが
なんだか
ざわざわしました。
こんなとほうもないでたらめを
楽しそうに聴いてくれるなんて。
翌日の夜、
こぐまたちはパジャマを着て、
眠い目をこすりこすり
並んでベランダからお風呂屋さんの
煙突を見上げています。
遠くからこぐまたちの様子を
見たおじさんくまは
はじめて
申し訳ない気持ちがしました。
何もかも、うそなのです。
でも、いつもみたいに
知らんぷりしていることが
どうしてもできません。
お店へ急いで戻ると
大きなリュックいっぱいに
真っ白なこんぺいとうを
たくさんつめこんで、
よっこらせっと背負うと
お風呂屋さんの
煙突にのぼりはじめました。
途中までくると風が強く吹いて
ぐらつきました。
「下りてくださいっ!お菓子屋さん!」
誰かが叫びました。
おじさんくまが下を見ると
町のくまたちが
集まって見上げていました。
「あぶないですぞっ。すぐに下りなさい」
みんな心配そうです。
(こんな自分のことを
心配してくださる方々がいるとは
ちっとも知らなかった)
お菓子屋のおじさんくまは
けっしてひとりぼっちでは
なかったのです。
それなのに
うその作り話をして
だれかが自分に注目してくれるのを
いつも待っていました。
やがてそれがくせになり
うそをつくのが
やめられなくなっていたのですが、
町のくまたちはそれをぜんぶ
わかっていました。
ただ、毎日うそに
付き合っているヒマはないので
距離を置いていただけなのです。
「もう少しで、てっぺんだ」
おじさんくまは
自分のついたうそを
せめてほんのひとかけらだけでも
本当のことにしたい。
そのことばかり考え
一歩一歩のぼりました。
顔のすぐ横を
とんびが通り過ぎたとき
足がつるりとすべりました。
わっ。
煙突にしがみついて
ふう。
と深呼吸をしました。
同時に
地面のくまたちの
ふう。
というほっとしたため息が
聞こえて
心が温かくなりました。
町のみんなが
自分を見てくれている!
おじさんくまは
ゆっくりゆっくりのぼります。
てっぺんにたどりつくと
足が震えました。
もう、
地面のくまたちは
豆粒にしか見えません。
「こぐまたち、ちゃんと見てるかな?」
そのとき。
ほんものの
流星群がはじまりました。
濃紺の夜空を
いくつもの星が
斜めに白い線をひいて
すー、すっ、
とよこぎります。
なんという不思議な
光景なのでしょう。
「いまだ!」
おじさんくまは急いで
こんぺいとうを取り出して
つぎつぎに遠くへなげました。
白いお菓子は
月の光を浴びて
きらめきながら
町にスローモーションで
落ちていきます。
「わあっ。こんぺいとうが降ってきた!」
「甘くておいしいね!」
町のくまたちはジャンプして
こんぺいとうを受け止め大喜び。
こぐまの兄弟も
「お風呂屋さんの煙突で、
おじさんがんばってるね!」
「見える、見える!
やっぱりスゴイや。おじさんって」
と、にこにこしました。
こぐまの兄弟はそのあと
ベッドでぐっすり眠って
楽しい宇宙の夢を見ました。
リュックが
すっかりからっぽになりました。
こぐまたちには
あした
いままでいっぱい
うそをついたことを
ちゃんと謝って、
流星群の本当の意味と
煙突のてっぺんから見た
うつくしい風景を
話してあげよう。
おじさんくまは
そう決心しました。
そして
どこまでも広がる
やさしい町を
見下ろしながら
少しひんやりした
気持ちのよい夜風に
いつまでも
吹かれました。
次の日からおじさんくまが
ぱったり
うそをつかなくなったので
町のくまたちも
こぐまの兄弟と
おんなじくらい
お菓子屋さんと
なかよくなりました。
おわり
「こんぺいとう流星群」SumiyoⒸ2021