「よるのおさんぽ」童話×水彩画

童話「よるのおさんぽ」を書きました。水彩で挿絵も描きました

水彩画「よるのおさんぽ」


「よるのおさんぽ」SumiyoⒸ2021

 

童話「よるのおさんぽ」

作 Sumiyo

夜光虫《やこうちゅう》が
波打ち際を青く輝かせる時間、
ペンギンは並んでおさんぽします。

住処《すみか》である水族館は
海の上に浮かぶように
ありましたから、
飼育員さんが帰ったあとは
いくらでも海へ遊びに行けるのです。

でも、よるの海辺のおさんぽは
ペンギンにとってスリル満点。

海には野生のカモメの群れがいて、
ペンギンをかじろうと狙っております。

そこでペンギンたちは
同じ水族館に住むシロクマに
警備員さんとして一緒に歩いて
くれるようおねがいしました。

「ぼ・・ぼくでよろしければ」
シロクマは震えながら言いました。

体は大きいのですが
シロクマはとてもこわがりなのです。

『誰よりも強くなりたい』

そう思っているのに気が弱い。

いつか変わりたいと
考えていましたから
これはチャンスです。

暗い砂浜に波が模様を描きます。

サア、ジュウル。
サア、ジュウル。

海の音を聴きながら
シロクマを先頭《せんとう》に
ペンギンたちが歩きはじめました。

水族館は狭いので
浜辺はきもちがのびのびします。

しばらく歩くと
泡立つ波に押されて
サーフボードがシロクマの足元に
到着しました。
乗っていたのは小さな犬。
「ひえっ」
シロクマは大声で叫ぶと

ごろんごろりん、
でんぐり返しで転がって
一番後ろにいる
こどものペンギンの
背中に隠れました。
といっても体が大きいので、
すっかり見えていますが。
こどもペンギンが
「犬が苦手なの?」
と聞くと
シロクマは小さくうんと
うなずきました。

(こんな弱虫のシロクマが
警備員さんでいいのかな)
ペンギンたちは考えこみました。

だって子犬はチワワなのです。
ペンギンよりも小さい犬。

ペンギンがチワワに
「きみも、よるのおさんぽ?」
と聞くとチワワは
「波乗りしながら闘《たたか》う練習や。
ひるはペットというお仕事があるから
よるにこっそり鍛《きた》えてるねん」
と言いました。
近所の家で飼われている
チワワのちくわです。
「しかしそこのシロクマっ。
こわがりすぎやろ?おれを見たら、
まあカワいい子犬!て、
はしゃぐのが普通やぞ」
ちくわは、シロクマに近づいて
白いもふもふした足をキックしました。
「いてっ」
シロクマは涙をためています。
「なんちゅう弱っちいクマ。
おれは見た目は子犬やけど、
ケンカならまけへんでえ」
とうッ。たあッ。
ちくわは短い足で
空気を蹴りあげました。

そのとき、
青紫《あおむらさき》の夜空の
高いところで

クウイール、クウイーレ
という鋭い鳴き声がしました。

「カモメだっ」
ペンギンたちの間に緊張が走ります。

カモメの群れは
旋回《せんかい》しながら
「おいしそうな」ペンギンめがけて
飛んできます。
「どうしようっ」
小走りで右へ左へ動き回る
ペンギンの前に、チワワのちくわが
おなかを見せて立ち上がり、
キックボクシングのポーズ。
「か弱いペンギンになにすんねんっ!
おれが相手や!」

カモメたちは、にまと笑いました。
「なんだ?あのちっこい犬は」
ちくわは一生懸命ジャンプして
小さな足でキックしようとしましたが
飛んでいるカモメには
ぜんぜん届きません。
「くそーっ」

そのときペンギンが
「シロクマ、立ち上がれ!」
と叫びました。

シロクマは子犬のちくわがこわくて、
さっきからずっと
巨大な大福もちのように丸まって
いたのです。
他のペンギンも言いました。
「そうだシロクマ、立ち上がれ!」
でもシロクマは丸まったまま。

「普通に立つだけだよ。
犬が近づいたらぼくがとめてあげるから」
こどもペンギンが耳元でささやきました。
シロクマはそれならと、
ゆらあり立ち上がりました。
「うわーんっ!
丸いふんわりクッションだと思ったら、でっ
かいクマだっ!」
カモメたちは
すばやく逃げて夜空に溶けました。

「へ、へえ。強いやないか、シロクマ」
ちくわが悔しそうに言いました。
ペンギンたちもさすがシロクマ!
とほめるので
シロクマはなんだかよくわからないけれど
少しだけ強くなった気がしました。

深いよるの色をしていた
海と空のまんなかに
金の水平線がひかりました。
もうすぐあさです。
「飼育員さんが来るまでに
水族館に戻らなくては」
「飼い主が起きる前に帰らなくては」
みんなで家路を急ぎます。

明るくなり足元の湿った砂が
はっきり見えてきたとき、
「きょえー」
ちくわが飛び上がって
シロクマの足に抱きつきました。
シロクマは驚きすぎて動けません。
「おれ。あかんねん。
ぬるぬるしたやつ!」
砂浜に打ち上げられたタコが
にゅるると移動してきます。
なあんだ。
シロクマはほっとしてタコを持ち上げ、
海に放しました。そして
「もう大丈夫ですよ」
と、ちくわの固まった背中を
なでてあげました。

誰にでも
得意なものと苦手なものって
あるんだなあ。

無理に
『誰よりも強くならなくちゃ』なんて
思わなくていいのかもしれない。

シロクマはそう思いました。

さあ、もうすぐ水族館の開く時間。
今日も小さい子がたくさん来ます。
シロクマもペンギンたちも
心がはずみました。
おわり

 

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